【猪木・アリ戦が格闘技界の枠組みを変化させた】
──異種格闘技戦の対戦相手として、一時、プロボクシング元ヘビー級王者ジョージ・フォアマンの名前が頻繁にあがっていました。そもそもフォアマンとは1977年(昭和52)10月に対戦内定という発表もあってファンは大いに期待していたのですが、結局、実現には至っていません。いったいなぜ猪木・フォアマン戦は行われなかったのでしょうか?
猪木 フォアマンとやるという話に関しては、俺もどういう経緯なのかよくわからないんだ(笑)。
──と言いますと?
猪木 当時、俺の対戦相手として名前が挙がっていた中には、多分にマスコミが煽ったものもあってね。もしかしたら、向こうのプロモーターサイドと実際にそういう話が進んでいたのかもしれないけど、マネージメントの方は一切を新間(寿)に任せてたから、本当のところ俺も把握してないんだ。ただ、あの頃のボクシング界は、とくにヘビー級はアリ全盛で他の選手はチャンスに恵まれなくて不遇だったから、まったく根も葉もない話でもなかったかもしれない。
──猪木・アリ戦が奇跡的に実現したことで、ボクサーにもボクシング以外の格闘技へ進出する可能性が開けたわけですからね。
猪木 そうですね。それまで絶対的だったプロボクシングの世界の機構が、あれによって崩れたわけだから、一気にいろんなことをやれる土壌はできてました。そのへんも理解した上で、マスコミもいい意味で〝夢を仕掛けて来た〟ということだったんじゃないかな。彼らも熱い時代でしたから、こっちが乗せられて本当になってしまうことも結構ありました(笑)。
【もし、フォアマンと闘っていたら】
──ジョージ・フォアマンというボクサーに対してはどんなイメージを抱いていたのでしょうか?
猪木 自分が実際に対戦するという前提で見た場合、フォアマンはアリのように足を使うタイプではないから、比較的楽に闘えるとは感じてました。いまのマイク・タイソンもそうだけど、ヘビー級ボクサーはじっと相手の動きを見ながら構えていて、一気にダーン!といくパターンばかりでしょう。でもいくらパンチが強くても、対等なルールで向き合ったなら、顔面さえ完璧にディフェンスすれば懐に入り込んで掴まえて倒す自信はありましたね。倒されたらボクサーは終わりですから。
──どっしり構えてパンチ力に頼るタイプはレスラーにとって与しやすいと感じていたんですね。
猪木 ボクサーでいちばん怖いのは、やっぱり足の使える選手ですね。アリの凄さは、ヘビー級でありながら軽量級並みのフットワークが使えたことに尽きるんですよ。ボクサー同士の闘いでも相手に打たれないで済むし、レスラーと闘っても懐に入らせない。掴まえることができなければ、こっちは何もできませんからね。
〈『アントニオ猪木の証明』木村光一著より抜粋〉