リセット。
2006年 02月 26日
ソルトレーク五輪におけるジャッジ不正事件に端を発したルール改正が、採点基準の明確化と引き替えに印象という曖昧な感覚要素の排除を招き、美しいスケーティングを信条としてきた荒川選手の技術が一気に時代遅れのものにされた。そこからいったん世界の頂点を極めた自分をリセットし、再び、今、世界の第一線で闘えるまでに己の技術を作り直していく過程の過酷さ、ジレンマ……栄光の陰にあった闘いには胸打たれた。
リセット。何かを手にすればするほど、それは何より恐ろしくなる。まして、そこから以前よりも高い頂を目指すことは、成功体験のある人間にとっては自己否定からの出発を余儀なくされる。荒川選手のあの鋼のようなしなやかさとしたたかさは、まさに、幾度も焼きを入れられて鍛え直された刀剣の如き強靭さだった。
ルールとは競技そのもの。まったく価値観の異なる新ルールの下で再び頂点を極めた荒川選手は、ふたつの競技を制したに等しい。それだけに、彼女の金メダルは尊い。