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アントニオ猪木が語る〝闘いを通して体感した柔道の格闘技性〟

【ルスカの強烈な投げを無力化した究極の受け】


──以前、日本プロレス道場時代、大坪清隆さんという柔道出身の先輩からよく指導を受けていたという話を伺ったんですが、その点も含めて、猪木さんがウイリエム・ルスカ戦に臨むまで抱いていた柔道という格闘技に対する認識について聞かせてください(註/このインタビューが行われたのは1996年。その時点から20年前のルスカ戦について猪木さんは振り返っている)。


猪木 坂口征二という柔道の一級品もいましたから、まあそれなりの認識はありました。柔道家っていうのは柔道着を着けさせたらとてつもない力を持ってますよね。ただ、裸で掴むところがない場合は手がなくなってしまう。ルール上、そうなってますからこれはしょうがない。それにもともと柔術にあった関節技が、全部禁じ手となってスポーツ化したことで、格闘の原点というか、格闘としての魅力がずいぶん薄れてしまったと思いますね。不思議なことにそういう原点の技術が、サンボやグレイシー柔術のような形で残っていたところが非常に面白いんだけど。


──ルスカには柔道の他にサンボの技術があったことは対戦前から知っていたんですか?


猪木 クリス・ドールマンというサンボの世界チャンピオンが同行してましたから。


──その頃の日本では一般的にサンボがどんな格闘技かほとんど知られていなかったと思うのですが?


猪木 俺もあんまり詳しくは知らなかったですね。だいたいこんな感じかなって予測はついてましたけど……。


──ルスカは相手の腕を極めながら投げるなどサンボ流の投げを使ってましたが、普通の柔道やレスリングの投げに比べ、相当受け身が取りにくかったのでは?


猪木 グレコローマンの投げ方、プロレスの投げ方、柔道の投げ方はそれぞれ違うし、たしかに受け身の取り方も変わってきます。これは最近気づいたんだけど、相手がどんな投げ方をしてきても、それに力で対抗しようとか、きれいに受け身を取ってやろうとか考えないで自分を〝無〟にする……。そうすると投げを吸収してダメージが少ないんですよ。


──相手の投げ方が問題なのではなく、自分を〝無〟にして受け切れるかどうかが重要だと。


猪木 そうです。


【ルスカの本当の強さは技へ引き込む技術】


──ルスカ戦では「柔道だったら猪木は何回一本負けしたか」という意地悪な意見もあったほどルスカの投げはインパクトがありました。受け身の名人でもある猪木さんに、あの投げはどの程度のダメージを与えていたのでしょう?


猪木 プロレスのリングは畳に比べればショックを吸収するようにできてますから、たしかにルスカの投げにはハンデだったと思います。ただ、ルスカが本当に強かったのは〝投げに入るまでの巧さ〟〝引き摺り込む強さ〟で、こっちが投げられまいと腰を落として膝をついてもススッと足を滑り込ませてきて跳ね上げる。それが決して力任せじゃない。そのへんはおそらくルスカに勝る人っていないんじゃないかな。筋肉もボディビルのものじゃない格闘技で培った筋肉で、もの凄い力でしたね。


【立ってよし、寝てよしのルスカ。しかし、体型は関節技に不向きだった】


──ルスカの腕がらみ、プロレスでいうアームロックや腕ひしぎはどのくらい効果があったんでしょうか?


猪木 柔道技の中でも投げに関してはルスカの天性というか、これにはとてもじゃないけど太刀打ちできなかった。けど、グラウンドに入ったときはルスカの体型的な問題というのがあって、どこかに隙間を作ってしまうところがありましたね。柔道の試合ではそれほど問題にならなかったみたいですが。


──それでも、ルスカが猪木さんとの異種格闘技戦で見せた〝投げからの関節技で一気にフィニッシュ〟というパターンは、当時、関節技のないスポーツ柔道を見慣れていた目には新鮮に映りました。最近は柔道でもずいぶん関節技がポピュラーになってきたようですが。そこで質問です。ルスカ戦の後、「ロープブレークのルールがなかったら、ルスカは腕ひしぎで勝っていたのではないか」という意見がかなりあったのですが、それについてはどう思われますか?


猪木 俺の場合、なんていうかそういう疑問を残すことで見る人に夢を残してきた部分があったんです。闘っているときにそんな余裕はないんだけど、無意識の中の駆け引きとでもいうのか、俺は本能的に相手の得意技をまず受けてしまう。それが結果的に相手のいい部分を引き出しているんだけど、ファンにしてみればもっと簡単に勝ってくれた方が気持ちいいという感情もあるのかもしれない。でも、闘いの駆け引きとしても、自分の得意技で決まらなかったときは精神的にかなりダメージを受けるものなんです。そうなると人間というのはガーッと力が落ちてしまう。もう何をしていいのかわからなくなって精神的にも混乱が起きるんですよ。


【ブリッジでバランスを崩し、柔軟性を利用して関節技を外す】


猪木 若手の頃、よく大坪さんとスパーリングをやったんだけど、あの人は非常に技が切れる人で、ヘッドロックや巻き投げの後、必ずかける関節技があったんです。どういう名前の技だったかは忘れたんだけど、その技が入ると絶対に誰も逃げられない。必ずギブアップを取れた技なんですよ。ところがそれを、俺がブリッジから柔らかく体を捻って脱出したからもう悔しがって……。


──ルスカの腕ひしぎががっちり入ったときも、見事にブリッジで返していました。


猪木 ブリッジっていうのはすごく脚が強くないとできないんです。結局、その力で相手のバランスも崩すんですが、関節技というのは少しでもバランスが崩れたりすると外れてしまうんです。あの頃はまだそんなに体を痛めてなかったから、俺も強いブリッジができたんですよ。

〈『アントニオ猪木の証明』木村光一著より抜粋〉




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by leicacontax | 2022-11-09 07:38 | プロレス/格闘技/ボクシング | Comments(0)

現実は精巧に造られた夢である。〈長谷川りん二郎の言葉〉


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