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アントニオ猪木が語る“レジェンドレスラー”  (3)ビル・ロビンソン

【史上最高の名勝負の裏側】

──いままで猪木さんはビル・ロビンソンについてあまりコメントされていませんね。その理由についてお聞かせ願いたいのですが。

猪木「素質からいったらカール・ゴッチ以上の部分もあって素晴らしかったんですけど、なんていうかビジネスライクなレスラーで…。それ自体はプロである以上、決して悪いことじゃないし責められることでもないんだけど、ちょっと度が過ぎてるところがありましたね」

──猪木・ロビンソン戦は、「剛」の猪木と「柔」のロビンソンという、ふだんの猪木さんの試合とは逆の構図になっていたように思われます。なぜ、そういう展開になったのでしょうか?

猪木「あの試合があった日(1975年12月11日) は、全日本も武道館で力道山追悼という名目の興行をやっていて、目と鼻の先のいわゆる興行戦争ですから、裏で嫌なこともいろいろあったんです。そういうことを吹き飛ばしたいという思いと、俺には“いい試合をすることこそが力道山の追悼だ”という信念もあって、いつも以上に“これがプロレスだ!”という試合を見せたいという気持ちが強かったのはたしかでしたね」

──猪木さんがロビンソンの得意技である「ダブルアーム・スープレックス」を執拗に仕掛けたのもそのあたりの意地の表れだったと?

猪木「それもあったし、『人間風車』(ダブルアーム・スープレックスの別名)はロビンソンの最大の持ち味ですから、あえてその技の攻防を仕掛けることで闘いを表現したかったんですよ。
たとえ技が掛からなくても、あるいは逆に掛けられても、今度はそれをどう切り返していくか。当時、そういう暗黙のテーマみたいなものを設けて毎回試合を作り上げてましたし、それにロビンソンは、ヨーロッパ流のレスリングをアメリカのプロレスにうまくアレンジするという、ゴッチもできなかったことをバーン・ガニアのテリトリーであるAWAで成功させていましたから、その点を試してみたい気持ちもありましたね」

──ビデオを見直してみて、あらためてロビンソンの最大の特徴は“柔らかさ”だと感じたのですが。

猪木「テクニックはゴッチほどきめ細かくはないんだけど、柔軟性は遥かにゴッチを凌いでました」

──猪木さんのネックロックが強烈に極まっている場面で、ロビンソンが一瞬、猪木さんの顔面に手をかけただけで技を外した局面がありました。正統的テクニックの応酬のさなか、そこだけ何か異質に感じたのですが…。もしかして、ロビンソンは顔面の急所を狙った裏技を使っていたのでしょうか?

猪木「そういった観客の知らない、気づかない、非常に細かい反則ギリギリのテクニックがあったんです。でも、そのころでもそういうテクニックを知っているレスラーは少なくなってましたね。
昔、ドン・レオ・ジョナサンっていうレスラーがいて、俺が闘ったころはもう全盛をちょっと過ぎていたかな、それでもまあとにかくデカくて柔らかくて力も強くて“こんなのどこからかかっていったって敵うわけない!”と思わせるくらい凄かった。だから、つねにジョナサンは自分の強さを過信して、上に乗っかってさんざん相手をもてあそんでは最後にたぶらかすみたいな試合ばかりしてたんですよ。
そういう態度がプロとしての面白味のなさにもつながってたわけなんだけど、一度、俺が試合中に後ろから被さってきたジョナサンの急所にヒジをバーンッ!って入れてやったらびっくりした顔になって、その瞬間に勝負が決まったみたいなことがあった。ロビンソンも大技だけじゃなくて、そういう細かい技を知っている数少ないレスラーの1人でしたね」

──ちょっと話は逸れてしまうんですが、過去の試合を見直してみてあらためて感じたのが猪木さんの“足のフックの巧さ”でした。どうしても画面は上半身の動きを中心に捉えられているのであまり気づかなかったのですが、たとえば猪木さんが下になっている状態から体を入れ替えるときとか、スタンディングの状態から相手をグラウンドへ誘い込むときとか、その足捌きの見事さを再発見した感動がありました。

猪木「いいところに気づいてくれたね」

──最近はそういう足捌きをするレスラーも少ないのではないですか?

猪木「藤原(喜明)くらいかな。それでもまあ硬い。要するに股関節が硬いというか」

──技をかける際にも、自分の関節の柔らかさは影響するんですか?

猪木「はい。あとはあまり腕も脚も太過ぎないこと。もうひとつポイントを挙げるとすれば、最近のレスラーは“立ってるときの構えがノーガード”。昔のレスラーは脇のところの隙間をどれだけ小さくするかを意識してましたね。まあ、それが小さ過ぎてもグラウンドに入ったとき上から崩されちゃうんでバランスが非常に難しいんだけど。最近の試合を見てると、それ以前に簡単に入らせてしまってる…。

──簡単に入ってしまうし、入らせてしまっていると。

猪木「アマレス系の選手でも甘くなってますね。本当はそこが蛇のように相手に絡みついて、自分の体勢に持ち込んでスタミナを奪ったり、あるいはディフェンスしたりする際にも重要なポイントなんですよ」

──何が原因でプロレスからそういった技術が失われてしまったのでしょうか?

猪木「いや、もともとアメリカでも日本でも俺とロビンソンがやったみたいなプロレスのほうが異質だったんですよ。とくに日本のプロレスは力道山が空手チョップでバン! バン!って格好よく相手をなぎ倒すところから始まってますから、俺がやってたような持久戦でじわじわ攻めていくっていうプロレスのほうが珍しかったんです。ある意味、そういうプロレスをファンに提供して教育していった部分もありましたね。まあ、最終的にファンが受け入れなければ成立しなかったわけですが。
それがまたいつの間にかそういう試合が消えてしまって…。大技もいいんだけど、観客の派手さへの要求に無条件に応え始めたら際限がないし、そればかりに一生懸命になってたら最後はサーカスですよ。何回宙返りしたほうが偉いとかね。でも、そういうものは最初は観客もびっくりするけどすぐに飽きられてしまう。本来、観客が見たがっているのは闘いであって、闘いの原点は強さですから! 結局、強さの表現っていうのは、ひとつ一つの技にこめていくものなんです」

〈『アントニオ猪木の証明』(木村光一著)より抜粋〉




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by leicacontax | 2021-04-18 19:15 | プロレス/格闘技/ボクシング | Comments(0)

現実は精巧に造られた夢である。〈長谷川りん二郎の言葉〉


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