4年前、ターザン山本さんから依頼を受けて書いた原稿(新日本プロレス30周年「非公式ガイド」30  SINCE1972〜2002/宝島社刊収録)をUPします。
ふと、思いだして読み返してみたら面白かったもので(笑)。

《極私的アントニオ猪木論「イノキの穴」》
「マルコビッチの穴」という映画を御存知だろうか。
ある場所にマルコビッチという俳優の頭の中に通じる秘密の抜け穴があり、そこに入れば、誰でも15分間だけマルコビッチの見ている世界を覗き見できるという不思議な映画だ。
この映画の主人公は、その禁断の魅力に取り憑かれ、最後には、穴から抜けられなくってしまうというストーリー。一時期までの私と猪木の関係は、この映画の主人公とマルコビッチに似ていた。
いうまでもなく、マルコビッチはアントニオ猪木。確かに、私は「イノキの穴」に入り込み、アントニオ猪木のすべてを知ろうとした。

私が猪木に初めて会ったのは、あの猪木スキャンダルが尾を引き、2度目の参院選に落選した直後のことだ。猪木を訪ねた目的は、いつの間にかうやむやになってしまったスキャンダルの真相を本人の口から聞き出し、それを本にすることにあった。
といっても、当時、私はマスコミの人間ではなく、編集経験も、ライターとしての実績もない——バブルの栄光と没落を経験し、10年間勤めた広告制作会社を辞め、知人の経営する編集プロダクションでのアルバイトで糊口をしのぐ——無力なフリーターに過ぎなかった。
その頃、私はすべてに自信を喪失していた。どん底だった。
しかし、自由を取り戻したことで、しばらく心の奥底にしまっていた、20年来の猪木への思いが再燃。虚ろで不安だらけの自分の姿と、議員バッジを失って呆然と立ち尽くしている猪木の姿を勝手に心の中で重ね合わせ、このまま終わってたまるか! と、怒りと悔しさだけを原動力に一冊の本の企画書をしたため〝迷わず行けよ、行けばわかる〟と呪文のように唱えながら、未知の世界に踏み出していた。武器は、根拠のないただの思い込み。実のところ、出版社も決まらないままの見切り発車だった。

どこの馬の骨かもわからない私の質問に、猪木は真摯に、正直に胸の内をさらけだしてくれた。猪木が何を訊かれたがっているのか、なぜだか手に取るようにわかった。インタビューが進むほどに、猪木の表情も、憑き物が落ちたように晴れやかになっていった。
その本(闘魂転生〜激白裏猪木史の真実/KKベストセラーズ)は幸運なことに3ヵ月後に出版され、好調なセールスを記録した。私のもとには、立て続けに猪木に関する書籍の編集や執筆依頼が舞い込むようになった。
「イノキの穴」に没頭することが、私の新しい仕事になった。
折しも、政界からプロレス界に帰った猪木を待ち受けていたのは、格闘技によるプロレスへの侵略と破壊だった。だが、私には、かつて自分が熱狂した猪木のプロレスには、揺るぎない格闘技の礎があるという確信が以前からあった。格闘技から吹く逆風が日増しに強まる中、私は、今こそ格闘家・猪木の実像を確かめる時だと直感した。

私は猪木の過去の名勝負といわれる、ほとんどの試合のビデオ分析に取りかかった。確信が思い込みではないことを確かめるためだ。
ビデオは1フレーム(30分の1秒)単位まで分析……60分フルタイムの試合=10万8000フレームの分析には1週間を費やした。万里の長城に積み上げられた石を、ひとつひとつ数えていくような果てしない作業。だが、新鮮な発見の連続だった。
ミクロ単位まで拡大して初めて見えた猪木プロレスの核心は、シビアな格闘技の技術と駆け引きそのもの。微妙な体重移動を使ったボディコントロール。柔らかい足首のフックを巧みに用いた攻撃と防御のテクニック。死角をついた急所攻撃の裏技……。
さらに、私は、山本小鉄、藤原喜明、佐山聡、石澤常光といった歴代のスパーリングパートナーを訪ね歩き、猪木がスパーリングで使っていた「極め技」について証言を求めた。実際に、猪木には道場でスパーリングも見せてもらった。そして、明らかになった猪木の真の極め技は……「フィギアフォー・ボディーシザース」という、拍子抜けするほど単純な技であった。
私は誰も知らない猪木の秘密を探り当てたような気がして、しばらく興奮がさめなかった(余談だが、後年、PRIDEでノゲイラがタフなヒーリングをボディーシザースで失神寸前まで追い詰めた場面を見て、その時の感激と興奮を思い出した。ノゲイラの足首のフックは、実に猪木そっくりだったのだ)。

その頃である。猪木が「ファイティング・アーツ」という言葉や格闘技への回帰を口にし始めたのは。私は、内心、自分が猪木に影響を与えているキーパーソンになったような気がして面映かった。しばらくして、猪木事務所からUFO(世界格闘技連盟)の基本コンセプト作りの依頼を受けるに至っては、自分が猪木そのものになったような全能感さえ抱いた。だが、それは錯覚だった。UFOは旗揚げから迷走。そして私は「イノキの穴」の入り口を封印。猪木とは違う、自分だけが歩むべき道の模索を始めた。

それから3年半——つい最近、猪木に再会した。
初めての小説を上梓したことを報告すると、
「行くべきところに行ったわけだねえ」——あの人なつこい笑顔を向けられた。
その時、私は、やっと本当に自由になれたのだと思った。
「マルコビッチの穴」の主人公は、いつしかマルコビッチ自身になり代わりたい欲望にかられ、そしてそれを実行した。しかし、結局、彼は他人の頭の中で、身動きひとつとれない囚われの身となって映画は終わる。
「イノキの穴」も同じだ。そう、一度でもその穴を覗いた者は、必ず自分を捨てて猪木になり代わりたいという妄想に支配されてしまう。思い起こせば、猪木にはそんな人間たちが群がり、そしていつも消えていった……。
私は「イノキの穴」から生還した。(文中敬称略)■


そしてさらに4年……再び、私は同じ思いを味わっています。
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# by leicacontax | 2006-02-17 00:32 | プロレス/格闘技/ボクシング | Comments(27)

爽やかな気分です。

ブログの引っ越しを済ませたら、本当に住処を引っ越したようにすっきり。
実家を出て一人暮らしを始めた気分!? そんな感じです。
やっぱり、その場で停滞しているくらいなら行動を起こすべきですね。
闘おうという意気込みこそが己を救う。
いや、きっと、それしか自分を救う道はないのでしょう。

当面は思いつくままつれづれにしたためていこうと思ってます。
しばらくはとりとめもない内容がつづくでしょうが、
なにか、心にひっかかることがありましたらコメントください。
(ブログの内容に関係ないことでもOKです)

写真は今年の正月、朝の散歩のときに撮った東京の日の出。
六本木ヒルズから東京タワーを望んだ景色です。
ライカのレンズはモノクロ処理をするとその味が際立ちますね。

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# by leicacontax | 2006-02-16 09:54 | 東京タワー | Comments(0)

諸事情から閉鎖になるアントニオ猪木公式ファンサイトから、一足早くこちらへ引っ越しました。
禍い転じて福。ファンサイトで知り合えた皆さん、また楽しくやりましょう。
新しい出会いにも期待しています。
とりあえず、今回はテストです。
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最近、新しいデジカメを買いました。
昨年の12月、猪木さんのバングラデシュ視察に同行した際、愛用のデジカメ(CONTAX TVS DIGITAL)が突然作動しなくなるアクシデントがあり(今思えばそれも暗示的)、帰国後、以前から憧れていたライカ・ブランドのデジカメを思いきって購入。レンズ以外の中身は全部パナソニックの被り物と陰口を叩かれているカメラですが、私は大いに気に入っています。
時々、家の窓から撮る東京の夜明け。
夜と朝が混在するこの時間が、私は大好きです。


f0070556_1902454.jpg私のお気に入りデジカメ/LEICA D-LUX2

パナソニックLUMIX DMC-LX1がベース。外観デザインを除いてスペック的には同じ性能といわれているが、実際は画質の味付けがパナソニックとライカでは異なるらしい(パナソニック版と使い比べていないためどう違うのかはわからない)。特徴は世界初「16:9」(ハイビジョンと同じ画面比率)モード搭載。従来のデジカメにも上下の画面を切り落とすだけの横長画面はあったが、この機種は通常4:3画面で有効600万画素、16:9画面では有効840万画素と左右に画面が広くなった分、240万画素がプラスされるのでワイド画面でも画質劣化がない。さらに、搭載のライカ製レンズは28mm(35mm判換算16:9時)と広角。スケール感のある画面撮影が自在で構図の制限を受けず、狭い室内でも楽々撮れる。大きめのレンズ口径の効果もあるのか、同じF2.8の他のデジカメと比べて暗さにも強い(パナソニック自慢の手ぶれ補正機能も相まって、被写体が静止していれば内蔵ストロボを使用しなくても、ほぼ見た目に近い感じに写る)。ライカというブランドへの憧れとデザイン性の高さを理由に即買いしたが、予想以上の性能ですっかり手放せなくなった。所有の悦びを満たしてくれるデジカメは滅多にない。パナソニック・ヴァージョンより3万円高いが、間違いなく、その差額以上の満足はある。*ちなみにこの画面はCONTAX TVS DIGITALで撮影。画面では大きく見えるが実物はコンパクト。ポケットに入ってしまう。


f0070556_19402937.jpg私のお気に入りデジカメ/CONTAX TVS DIGITAL

技術の進歩が著しいデジタル機器の世界では、2003年モデルのこの機種はスペック的には既に時代遅れ。液晶は小さくて見にくく、屋外ではほとんど使い物にならない(そのためではないだろうが、このカメラにはデジカメには珍しい光学ファインダーがついている。つまり、普通のカメラにある覗き穴。これがあるとフィルムカメラの構えで撮影できる)。とはいえ、当時のハイエンド機種だけに有効500万画素は画質的に不足はない。なにより35mmコンパクトカメラの名機といわれたCONTAX Tシリーズを踏襲したチタンボディが重厚でカメラらしくていい。私は写真を撮っているという感覚を重視しているので、デジカメにもカメラらしさを求めている。そもそもこの機種もその理由から購入した。だが、チタンボディの質感の高さに比べ、プラスティック部分の仕上げがあまりにもチープ。シャッターのレスポンスもイマイチ鈍い。所詮デジカメかとがっかりしたものの、それらの不満は撮影画面を見て解消された。搭載されているカールツァイスレンズ特有の透明感と品のいい色調表現。結局は画質で納得。昨年末、取材中にデータが消えるという大トラブルがあって最近は使っていないものの、基本画質はLEICAよりこちらの方が好み。オーバーホールしてコンディションを整えれば、味わいのある画が撮れるカメラとしてまだまだ使い続けられそう。ただ、ボディはちょっと大きめ。撮影にはちょうどいい大きさなのだが、厚みと重量があるためポケットに入れて携帯というわけにはいかない。
*画面はLEICA D-LUX2で撮影。
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# by leicacontax | 2006-02-15 09:33 | プロレス/格闘技/ボクシング | Comments(6)

プロフィール

木村光一(きむらこういち)
1962年、福島県生まれ。東京造形大学デザイン学科映像専攻卒。広告企画制作会社勤務(デザイナー、プランナー、プロデューサー)を経て、'95年、『闘魂転生〜激白 裏猪木史の真実』(KKベストセラーズ)の企画編集を皮切りにフリーのエディター、ライターへ転身。'98〜'00年、ルー出版、いれぶん出版編集長兼任。プロレス、格闘技、芸能に関する多数の書籍・写真集の出版に携わる。現在、フリーランス・ライター、作家として活動。写真・映像配信サイト『月刊 DIGITAL FACTORY』(m-up.com)にてライフワーク写真『月刊 東京タワー』も発表している。

【編集/構成作品】
◯闘魂転生〜激白裏猪木史の真実(企画・構成) KKベストセラーズ
◯闘魂戦記〜格闘家・猪木の真実(企画・構成) KKベストセラーズ
◯INOKIアントニオ猪木引退記念公式写真集/原悦生・全撮(企画・編集) ルー出版
◯ワールドサッカー・スーパースターズ/原悦生・全撮(編集) ルー出版
◯朋友 GOAL AFTER GOAL/宮澤正明・全撮(編集) ルー出版
◯武田久美子写真集S/宮澤正明・全撮(編集) ルー出版
◯桜庭あつこ写真集Careyes/宮澤正明・全撮(編集) ルー出版
◯ロシナンテ写真集へあぬーど/宮澤正明・全撮(編集) ルー出版
◯My Bible/蝶野正洋・著(編集・構成) ルー出版
◯燕よ空へ/白氷氷・著(編集・構成) ルー出版 *日本・台湾2カ国発売
◯金融地獄/岸部四郎・著(編集・構成) ルー出版
◯ホテルカリフォルニア重犯罪刑務所/丸山隆三・著(編集) ルー出版
◯ノストラダムス一九九九年七月二十六日十七時/趙顯黄・著(編集・構成) ルー出版
◯ノストラダムスはいなかった/趙顯黄・著(編集・構成)  オーシャンライフ株式会社
◯少年Aえれじい/正木亜土〈梶原一騎・真樹日佐夫共同ペンネーム〉著(編集) ルー出版
◯秘密警察ミニスカポリス―ミニスカポリス写真集(編集) ルー出版
◯闘魂ふたり旅〜夢のみちずれ奇跡の真実/永島勝司・著(編集・構成) いれぶん出版
◯実録地上最強のカラテ〜ゴッドハンドの系譜/真樹日佐夫・著(編集) いれぶん出版
◯すっぴんファイル カノ女たちのピュアな挑戦/中京テレビ・編(編集)  いれぶん出版
◯小金さん 熱海百年芸者物語/鏑木賀代・著(編集・構成・撮影・装丁) 東邦出版
◯和なるもの、家なるもの 東京・世田谷 伊佐ホームズ/伊佐裕・著(構成)  講談社
○敗者の報道/みのもんた著(構成)TAC出版


【著作】
◯アントニオ猪木の証明〜伝説への挑戦  アートン
◯猪木論!魔性の力の解剖学  有朋堂
◯格闘ゲーム リアル研究序説〈須佐直人共著/東京ポリゴンズ名義〉 KKベストセラーズ
◯INOKI ROCK〈百瀬博教、村松友視、アントニオ猪木、堀口マモル共著〉 ソニーマガジンズ
◯ファイター 藤田和之自伝〈藤田和之共著〉 文春ネスコ
◯『ふたりのジョー』〈梶原一騎・真樹日佐夫/原案〉文春ネスコ
◯デジタル写真集『月刊 東京タワー Vol.ヒルズの広場から 2006〜2015』(撮影)m-up.com


【連載】
◯格闘技コラム『格闘未来世紀』 内外タイムス '96〜'97年
◯小説『ふたりのジョー』〈梶原一騎・真樹日佐夫/原案〉 スポーツグラフィックNumber '00〜'01
◯格闘家フォト&インタビュー『傷だらけの肖像』週刊実話不定期連載 '08〜'09年
*藤原喜明 *藤田和之 *初代タイガーマスク *緑健児 *鈴木みのる *高橋義生 *近藤有己 *グラン浜田 *アレクサンダー大塚  他
◯ノンフィクション『闇の昭和プロレス史 マンモス彷徨』月刊実話ナックルズ '12〜現在連載中
◯デジタル写真集『月刊 東京タワー』〈写真・映像配信サイト『月刊 DIGITAL FACTORY』(m-up.com)にて毎月配信〉'15〜現在連載中

【寄稿雑誌/ムック/単行本】
◯スポーツグラフィックNumber  文藝春秋
*539/540号 「非日常を生む求心力」アントニオ猪木ロングインタビュー  *555号 焦燥を越える肉体 藤田和之  *772号 〝聖域〟へと果敢に挑んだ『あしたのジョー』実写化。  他
◯別冊宝島 新日本プロレス30周年「非公式ガイド」30  SINCE1972〜2002 極私的アントニオ猪木論「イノキの穴」  宝島社
◯別冊危ない1号 格闘界ケンカ列伝 データハウス
◯ザ・格闘家 最強を目指した戦士たちの素顔 光文社 
◯週刊実話 Peopleインタビュー '96〜'09
*カシアス内藤(元プロボクシング東洋ミドル級王者) *ジョー山中(ロック歌手) *西澤ヨシノリ(元プロボクシング東洋太平洋ライトヘビー級王者) *宮戸優光(元プロレスラー/UWFスネークピットジャパン主宰) *尾藤イサオ(俳優/歌手) *佐山サトル(プロレスラー) *武田幸三(キックボクサー)
◯実話ナックルズ ミリオン出版
*尾藤イサオ【芸歴50余年、真摯に己の芸を磨いて生きてきた男の美学】〝あしたのジョー〟との宿命を語る '11年3月号  
◯Sports Graphic Number 創刊30周年記念ボクシング讀本─拳の記憶
*[〝元祖モデル〟小林弘の証言 ]クロスカウンターと矢吹丈のいた時代
 '11年4月26日発売
◯別冊週刊大衆 永久保存版 美しき敗者 36番勝負 日本が涙したスポーツ名勝負秘話
*「橋本vs小川」非戦のゴング  *格闘技世界一決定戦「ルスカvs猪木」最強の証明
'15年8月23日発売


【プロデュース】
◯WEBアントニオ猪木公式ファンサイト〈TEAM INOKI〉〈ANTONIO SPECIAL〉'06年3月閉鎖
◯通販サイト・イノキイズムストア '06年3月閉鎖

2015年11月現在
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# by leicacontax | 2006-02-01 00:00 | 木村光一プロフィール | Comments(0)