カテゴリ:映画/TVドラマ( 24 )

2011年 07月 22日
原子力戦争──原田芳雄氏の死を悼む。
 19日、俳優の原田芳雄氏が亡くなられた。とても好きな俳優だった。
 高校1年のとき、私の故郷に映画のロケ隊がやって来て、実家の近所で撮影が行われたことがあった。主演俳優が原田芳雄らしいとの噂を聞きつけた私はレイバン擬きのサングラスをかけ、自転車のペダルを漕いで現場に駆けつけた。というのも、中学高校と私は松田優作にかぶれていて、その兄貴分である原田芳雄にも強く惹かれていたからだ(サングラス、髪型、低い声のトーン、セリフの言い回し──等々、デビューからある時期までの松田優作は原田芳雄の忠実なコピーだといっても過言ではない。そして私も、恥ずかしながらそのコピーのコピーに励んでいた当時全国に大量発生した〝優作擬き〟の一人だった。つまり、そんな遠回しなつながりにより、私にとっても原田芳雄は尊敬する大兄貴だったのだ)。さらに、中学生の頃から友人たちと8ミリ映画に熱中していた私にとって、そのロケはプロの現場を見学出来る願ってもないチャンスでもあった。

 野次馬が二重三重に現場を取り囲んでいた。その頃、すでに身長が180センチ近くに達していた私は苦もなく撮影の様子を窺うことができた。サングラス越し、アンバーに染まった原田芳雄はテレビや映画で観るよりずいぶん背が低いように感じられた。が、がっしりした肩幅、分厚い胸板の迫力は逆に平面の映像のなかのそれしか知らなかった眼にはまったくの予想外で意表をつかれた。浅黒い肌が発散する気配も濃密でまるでそこだけ重力が違っていた。見慣れた街角(そこは歓楽街に近い銭湯の入り口)が背景だっただけに、かえってその姿は際立って異形のものとして網膜に焼き付いた。

 映画のタイトルは『原子力戦争』──1978年公開のATG作品である。原作は田原総一郎。監督は『龍馬暗殺』、『祭りの準備』(この映画は私が観たあらゆる青春映画のなかで五指に入る)の黒木和雄。最初、そのタイトルを耳にしたときはてっきり特撮かアクション映画だと早合点して別の期待に胸を躍らせたのだが、実際はその対極の映画──原子力発電所のある地方の港町に流れて来たヤクザがとある原発スキャンダル(原発事故の組織的隠蔽)に巻き込まれて破滅へ追い込まれるというストーリー──暗い、重苦しい、欠片も救いのない、いわゆる〝社会派〟映画だった。

 サスペンス劇の体裁をとりながらいっこうに盛り上がらない典型的観客不在映画。それでも、唯一、原田芳雄が原発入口で警備員と押し問答になる場面だけが本筋とはトーンの異なるドキュメンタリー調になっていてやけに生々しかった。実際、そのシーンは福島原発にアポ無しで突入して撮影されたらしく、いまにして思えば、作り手の目的は端からこの行為の記録──原発問題をタブーにする社会風潮への投石──にあったに違いなかったことに気付かされる。

 それでも、やはり、映画はみごとに全編満遍なく間延びして退屈極まりなく、原田芳雄が劇中で彷徨う景色と自分が8ミリ映画の背景に選んで撮影した場所の重なりを探すという別の楽しみがなかったら、私でもエンドタイトルまで付き合うのはおそらく無理だった。そんなわけで、この作品は私にとってきわめて個人的な記憶と結びついたカルトな1本という以上の意味を長い間もたず、故郷を離れて30年このかた、めったに憶い出されることもなかった。3月11日、あの忌まわしい原発事故が起きるまでは──。

 退屈極まりなかった映画はどうしようもない未来を暗示していた。
 そして、はからずも、預言者の役割を演じた原田芳雄氏がこの時期に世を去った。
 故郷のあの海も、すでに色褪せた8ミリフィルムのなかにしか存在しない。
 合掌。

(文中一部敬称略)


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by leicacontax | 2011-07-22 09:17 | 映画/TVドラマ | Comments(0)
2007年 02月 28日
ドリームガールズ
先日のアカデミー賞で話題になったドリームガールズ。劇場の混雑が予想されたため、先週末、賞の発表前に観に行って来た。伝説的ブロードウェイ・ミュージカルの映画化だけに、音楽シーンのクオリティが高く、とくにアカデミー助演女優賞を獲得したジェニファー・ハドソンの絶唱シーンは鳥肌モノ。この作品が演技初挑戦とは思えない堂々たる女優ぶりといい、こういった才能が後から後から続くあたり、さすがアメリカはエンタテインメントの本場だと再認識させられた。モータウンサウンド('70年代を席巻した、いわゆる黒人ディスコ・ミュージック)に懐かしさを覚える人なら、まず間違いなくノレる、楽しめる映画だと思う(ビヨンセがどんどんダイアナ・ロスそっくりになっていくあたりがまた面白い)。

が、物語は黒人による公民権運動が激化した'60年代を背景に、蔑まれ続けた黒人音楽がジャンルとして認知されるまでのアメリカ音楽シーンのダークな業界内幕もので、決して単なるサクセスストーリーではない。人間関係もどろどろの愛憎劇。それでも、そこはミュージカル。登場人物の感情の発露をすべて音楽に託し、あくまで夢の世界であることを逸脱しない。劇中のステージングはすべて第一級のショータイム。しかしながら、むしろそれが洗練され過ぎているせいでジェニファー・ハドソンの泥臭い熱唱シーン以外の印象を殺いでいるといえなくもない。主演のジェイミー・フォックスの抑えた演技やビヨンセの美しさ、吹き替えなしで見事な歌唱力を披露しているエディ・マーフィだって素晴らしいのに、である。

2時間10分の上映時間があっという間で物足りなさを感じさせるのはエンタテインメントとして成功している証。終わってみればサクセスストーリーを観た心地よさしか残らない。でも、この映画にとって、はたしてそれは幸福なのか? 音楽映画の名作 『ローズ』や『オールザットジャズ』を観た後にいつまでも消えなかった切ない余韻を憶い出し、ふと疑問も残った。
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by leicacontax | 2007-02-28 15:17 | 映画/TVドラマ | Comments(2)
2006年 11月 09日
映画鑑賞覚書1
ここ数ヶ月、けっこう映画を観ているのだが、面白い作品ほどいろいろ書き記しておきたいという気持ちが強過ぎて、かえってブログに書きそびれていた。詳しくはいずれまた徐々に作品毎にまとめるとして、とりあえずメモ代わりの覚書を記しておこうと思う。

〈十三人の刺客〉
■ 1963年/東映/監督:工藤栄一/出演:片岡千恵蔵、内田良平、西村晃、丹波哲郎、里見浩太朗
* 裏「七人の侍」とでもいえそうな、モダンと荒唐無稽とリアリズムが混在する当り前のようで当り前でない時代劇。

〈ネバーランド〉
■ 2004年/イギリス・アメリカ合作/監督:マーク・フォースター/出演:ジョニー・デップ、ケイト・ウィンストレット、ジュリー・クリスティ、ラダ・ミッチェル、ダスティン・ホフマン、フレディ・ハイモア
* 舞台ピーターパン誕生秘話をベースにした実話でありファンタジー作品。千変万化のジョニー・デップの静かな演技が胸に滲みた。

〈8人の女たち〉
■ 2002年/フランス/監督:フランソワ・オゾン/出演:カトリーヌ・ドヌーブ、ファニー・アルダン、エマニュエル・べアール、イザベル・ユベール、ヴィルジニー・ルドワイヤン、ダニエル・ダリュー、フィルミーヌ・リシャール
* フランスが誇る8人の女優が唄って踊るおしゃれミステリー。歳を取らないドヌーブはフランスの吉永小百合か。気持ちよく映画の世界に浸れる。が、観終わって、よくよく考えてみれば世にもおぞましい物語。

〈ナインス・ゲート〉
■ 1999年/フランス・スペイン合作/監督:ロマン・ポランスキー/出演:ジョニー・デップ、フランク・ランジェラ、エマニュエル・セニエ、レナ・オリン
* 〝本の探偵〟ジョニー・デップが悪魔の書を求めて旅するオカルト・サスペンス。ヨーロッパ映画独特の陰鬱に、ジョニー・デップがアメリカ人とは思えないくらい見事に溶け込んでいる。ヒーローではないデップがひたすらハードボイルドでかっこいい。

〈袋小路〉
■ 1966年/イギリス/監督:ロマン・ポランスキー/出演:ドナルド・プレザンス、フランソワーズ・ドルレアック、ライオネル・スタンダー、ジャクリーン・ビセット、ジャック・マッゴーラン
* 孤島の古城に住む夫婦と逃亡中の犯罪者の奇妙な二日間。率直である意味正直者の犯罪者より、最後の最後まで理解不能な夫婦関係の方がよっぽど不気味で怖い。60年代のモノクロ・ヨーロッパ映画はクール。美意識の塊だ。
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by leicacontax | 2006-11-09 20:15 | 映画/TVドラマ | Comments(0)
2006年 10月 14日
チャーリーとチョコレート工場
ティム・バートン監督の映画は、どの作品を観ても平面的だ。
『バットマン』や『マーズ・アタック』はコミックだし、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は、お伽噺の絵本。それらの奥行きのなさを、物足りない、深みがないと批判する映画ファンも少なくないようだが、そんな平面的世界こそティム・バートンがティム・バートンである所以。この作品は後者のお伽噺。物語はコミックよりさらに単純で、ひねりもどんでん返しもない。

ファンタジーに理屈は不要。荒唐無稽に説明や教訓を求めるのは野暮。むしろ、映画という最先端技術の集大成である表現手段を使い、目を見張る美術、チョコレート工場従業員(小人ウンパ・ルンパ)の馬鹿馬鹿しい不思議なミュージカル・シーンなど、無意味に楽しいだけの映像世界を徹底して描き続けるバートン監督の執念めいたエネルギーには凄みさえ感じてしまう。
めでたしめでたしで気分よくお伽噺が終われば、無性にチョコが食べたくなる。それだけの映画。だが、それだけだからこそ、この映画は愛おしい。
今度観るときは、絶対チョコを食べながら観ようと思う。
カカオの香りと甘さを楽しみながら『チャーリーとチョコレート工場』を観る。
それはきっと至福の贅沢だ。

(2005年アメリカ映画/ワーナーブラザース製作/ティム・バートン監督/ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア)
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by leicacontax | 2006-10-14 02:17 | 映画/TVドラマ | Comments(0)
2006年 10月 01日
クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲
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昨晩、テレビで〝また〟観てしまった。
この作品、5年前に製作された『クレヨンしんちゃん』劇場映画シリーズ第9作なのだが、観る度に不覚にも落涙を余儀なくされてしまう〝上質なオトナ〟の映画だ。
劇中に登場する『20世紀博』という昭和テーマパークが昨今の〝20世紀懐古ブーム〟を見事に予見しているばかりか、なにしろ『クレヨンしんちゃん』というキャラクターおよびアニメという表現手段を用いながら、過去を懐かしんだり偏愛したりする〝子供な〟オトナを痛烈に批判するなど、とにかく気骨に溢れている。
宮崎駿作品に見られるようなアニメだからこそ可能なディティールへのこだわりも満載。たしかに、劇中の大人たちが懐かしさのあまり我を忘れて心を奪われてしまうように、昭和を知る世代にとってこの映画に描かれている世界はそれ自体が楽しくて美しい過去の宝石箱。
無味無臭のあじけない現代で夢も希望もなく生きるよりもと、すべてを捨てて(劇中の大人たちは子供も捨てて・・・子供のまま子供を産んで幼児虐待という恐ろしいパターンを彷彿させる)過去の懐かしい匂いが充満するバーチャル空間に生きようとする大人たちへ、〝懐かしいってそんなにいいの?〟と鋭い言葉を浴びせかける子供たちの反撃は、痛くて切ない。
ラスト、日本中に〝懐かしさ〟を蔓延させて大人を子供に還してしまうガスの噴霧を阻止し、未来を守るために巨大な鉄塔を駆け上がるしんちゃんファミリーの姿は文句なく観る者に勇気を与える。
この映画には〝愛だ、恋だ、病気だ、死んだ〟そんな単純化された泣きの記号の羅列だけで商売しているこの頃の日本映画とは違う、したたかな映画の力と本当の涙が詰まっている。

2001年/日本映画/監督・脚本 原恵一
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by leicacontax | 2006-10-01 09:56 | 映画/TVドラマ | Comments(0)
2006年 09月 17日
モーレツ! 大人計画まつり〜その3『真夜中の弥次さん喜多さん』
f0070556_139475.jpgモーレツ! 大人計画まつり〜その3は宮藤官九郎初監督映画『真夜中の弥次さん喜多さん』。原作は、しりあがり寿のコミック。原作を読んでいないので比較はできないが、おそらく、映画全体のシュールなトーンは基本的にそこからの引用なのだろう。ワイルドで男らしい弥次さん(長瀬智也)とヤク中の喜多さん(中村七之助)。二人は愛し合うホモのカップル。物語の前半は喜多さんのヤク中を治すための伊勢参りの道行きを描いていて、往年の歌謡ミュージカル調プログラムピクチャーのテイスト(プログラム・ピクチャーとは、1952年〈昭和27年〉から1971年〈昭和46年〉にかけて量産された作品を指す。当時は東映、東宝、松竹、大映、日活の5社がほぼ毎週、自社系列の映画館で新作映画を上映していた時代。とにかく番組〈プログラム〉を埋めなくてはならず、いかに安く、手早く撮れるかが重視された。そのため、チャンバラ、ヤクザ、コメディ、アクション、または当時の人気スター、歌手を主役にした青春映画といったジャンルの中で、ある程度のパターンが決まっているストーリーが多かった/佐々部清監督作品『カーテンコール』公式サイトより解説引用http://www.curtaincall-movie.jp/special1/index.html)。

内容が難解との評をネットでしばしば見かけていたが、それはパターン化されたハリウッド映画にすっかり馴らされてしまい、保守的な映画の見方しかできなくなってしまった人達の意見だ。といって斬新な映画かといえばそうでもない。この映画に関していえば、古き佳き日本映画のおおらかさ(本筋とは無関係に受け狙いの脱線を連発)をイマ風なゆるいおふざけ感覚に置き換えただけで、そう目新しいつくりではない。そもそも大人計画や宮藤官九郎がいま受けているのは、そういった余白の使い方=はみだし方の面白さであり、宮藤官九郎が昔ながらの〝道中もの〟を初監督映画の題材に選んだのは当然の成り行きだったように思う。ヤク中の喜多さんの見る幻想は、そのまま映画のヴィジュアル的な見せ場でもある。私は基本的にCGによるこけおどし映像が好きではないが、この映画ではそれが逆に効果的に使いこなされている。そのあたりのしたたかな計算力も、宮藤官九郎の非凡な才能のゆえんだ。

ただし、その薬物中毒患者の悪夢というもうひとつのテーマが、どうしても話を陰惨にしてしまい、そのあたりが好みの分かれるところだろう。「おいらリアル(現実)ってもんがわからねえ」が喜多さんの口癖。しかし、演じる中村七之助の演技は寒気がするくらいリアル。笑いと残酷な現実のダイナミックな対比は宮藤官九郎が物語のクライマックスでしばしば見せる常套手段。それがいつも楽しいだけではすまされない人生の哀しみを表し、物語に濃い陰影を与えているのだが、この映画でも後半、その手法は遺憾なく発揮されている。私は前半のスチャラカなノリより、そんな後半の方が断然好きだ。細かいことを書くとネタバレになってしまうので詳細は省くが、最後、弥次さん(長瀬智也)の女房を演じた小池栄子がとてもよかった。

(2005年/宮藤官九郎監督作品/長瀬智也、中村七之助、小池栄子ほか)
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by leicacontax | 2006-09-17 15:19 | 映画/TVドラマ | Comments(0)
2006年 09月 16日
モーレツ! 大人計画まつり〜その1『イン・ザ・プール』
WOWOWで開催中の〝モーレツ! 大人計画まつり〟を一晩〝観戦〟。
松尾スズキ初主演映画『イン・ザ・プール』。今年5月に下北沢・本多劇場で行われた大人計画本公演『まとまったお金の唄』。昨年話題になった宮藤官九郎初監督映画『真夜中の弥次さん喜多さん』。通常、映画2本と演劇1本を一気に続けて観るだけでも大変なのに、全部、一筋縄ではいかない大人計画つながり・・・観ているうち、これは鑑賞ではなく観戦なのだと、真夜中、ある種の〝行〟に没頭しているような気分になった。ねじれた非日常感覚にどっぷり浸かって脳内はたえず快楽と不快のせめぎあい。たしかに〝モーレツ〟な〝まつり〟だった。

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『イン・ザ・プール』は直木賞作家・奥田英朗の人気小説の映画化。あぶない精神科医・伊良部一郎が本気なのかふざけているのか皆目わからないハチャメチャな逆療法によって、さまざまな患者の数々の心の病を解決していくというお話。
同じ主人公による小説『空中ブランコ』も、以前、テレビドラマ化されている。テレビでは伊良部の役を阿部寛が演じ、原作のイメージとのあまりのギャップに不満しか残らない出来だったが『イン・ザ・プール』はまったく逆。伊良部一郎なのか松尾スズキなのか判別がつかないくらいのハマリ方だった。小説を読んでいて松尾スズキの顔が浮かんだことは一度もなかったのに、松尾スズキが画面に登場した途端、あ、なるほど、と納得してしまったのだ。ただ、惜しむらくは松尾スズキの怪しさと伊良部がフィットしすぎて、かえって映画全体が落ち着きすぎてしまった。私のイメージでは伊良部は変人ではあるが怪人ではない。もっと無邪気だし、弾けている。松尾スズキは普通に怪し過ぎるのだ(笑)。私、個人的には、古田新太の伊良部一郎が観てみたいと思っている。
ちなみに〝継続性勃起症〟患者の役でオダギリジョーが出演しているのだが、登場する度に下半身裸になるのがおかしい。
(2005年/三木聡監督・脚本/松尾スズキ、オダギリジョー、市川実和子、田辺誠一他)
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by leicacontax | 2006-09-16 18:03 | 映画/TVドラマ | Comments(0)
2006年 09月 13日
アンティーク〜西洋骨董洋菓子店〜
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私がとても好きな、もしくは記憶に焼き付いて忘れられないテレビドラマには困った共通点があります。古くは『悪魔のようなあいつ』『昨日、悲別で』、いちばん新しいところでは『下北サンデーズ』などがそうなのですが、簡単に言ってしまうと、これらは鳴り物入りでスタートしたにもかかわらず、いずれも期待された視聴率を稼げずにおわってしまった、いわゆる期待はずれという不名誉なレッテルを貼られているという点です。

'01年に放送された『アンティーク〜西洋骨董菓子店〜』もそのひとつで、キャストには、滝沢秀明、椎名桔平、藤木直人、阿部寛、小雪という錚々たるメンバーを揃え、音楽はMr.Children、演出も『踊る大捜査線』の本広克弘らが担当と、どこをどう探しても失敗する要素は見つからない完全無欠の売れ線ドラマでした。
ところが、蓋を開けてみれば平均視聴率17.7%。普通に考えればさほど悪い数字ではないですが、なにしろフジテレビが総力をあげて制作した『月9ドラマ』ですから、この結果は肩すかしと結論づけられても仕方なかったわけです(最近はもっと悪いこともしばしばなようですが)。

しかし、そんなこととは関係なく(そもそも視聴率とドラマの本質的な良し悪しは無縁です)、このドラマは面白かった。『西洋骨董菓子店』という少女漫画が原作(よしながふみ)らしいのだけど、漫画ならではの設定の面白さとキャストの個性が実に自然に噛み合っていて、毎回、ドラマ全体になんともいえない心地よい空気が流れていました。私は映画もドラマも小説も、どちらかというとストーリーよりディティールに惹かれるたちなので、その意味でこのアンティークは見事にツボでした。
舞台になっている元アンティークショップを改造したという設定の洋菓子店『アンティーク』のセットの素晴らしさは言うに及ばず、私が感心したのはタッキー演じる元天才ボクサーのパティシエ見習い・神田エイジの堂に入ったボクサー姿。牟田悌三演じるボクシングジムの会長も妙にリアリティがあって、後楽園ホールでの試合シーンといい、テレビドラマのボクシングに関する描写としては出色の出来で、ハリウッド映画並みの準備が可能だったなら、おそらくタッキーは『レイジングブル』のデ・ニーロや『アリ』のウィル・スミスのように完璧にボクシングをマスターし、ボクサー特有の剃刀のような肉体もつくりあげて見せただろうと思わせるくらいの説得力がありました。
説得力といえば、第2回(「愛の井戸」)にボクサー役で長塚圭史がゲスト出演しているのですが、彼もさりげなくボクサーの危うさと脆さを演じていてよかった。話はよくあるパターンですが、私はこの回がいちばん気に入っています。

現実離れした設定でありながら、ドラマは終始、劇的な方向には流れず、人と人の交わりからうまれる温もりをさりげなく描くことに徹しています。それが心地よい空気の理由なのですが、たぶん、そこに視聴率不振の原因もありました。
アンティークの放送が始まる直前です。あの9・11同時多発テロが起きたのは。
テレビでは連日、現実とは思えないショッキングな映像が流されつづけ、世の中には怒りと虚しさと不信が蔓延していました。そんなとき、同じテレビのモニターに映し出されたこのドラマの優しさや温もりが絵空事のようにしか見えなかったとしても、それはそれで、仕方のないことでした。

いまからでも遅くありません。まだ観ていない方は、ぜひ、DVDでご覧になってください。
私は疲れると、甘いものが欲しくなるように、このドラマが観たくなります。
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by leicacontax | 2006-09-13 17:54 | 映画/TVドラマ | Comments(0)
2006年 09月 02日
爆裂都市〜BURST CITY
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先日、DVDを購入してひさしぶりに石井聰互監督の『爆裂都市』を観た。
この映画は観る度に印象が変わり、私のなかではつねに評価が定まらない。
それでも、毎回、なんらかの意味で圧倒される刺激的な映画であることは間違いない。
「これは暴動の映画ではない。映画の暴動である」が劇場公開時(1982年)のキャッチコピー。まさに的を射ている。近未来の架空の貧民窟を舞台に、ロッカーとチンピラとキチガイとヤクザとポリスと変態とスラムの住人の欲望と怒りと破壊衝動だけが延々描かれている。はなから物語は破綻し、観る者に感情移入の隙も与えない。そういうわけで観る度に気分と印象が変化するのである。

石井聰互監督は70年代後半から80年代始めに、当時一大ブームだった自主制作映画の世界に君臨するキングだった。日大芸術学部在学中に8ミリで撮った『高校大パニック』は日活で劇場映画としてリメイクされ、つづく16ミリ作品の『狂い咲きサンダーロード』はその圧倒的な面白さを買われ、そのまま35ミリにブローアップされて東映系で全国劇場公開されるという偉業を成し遂げた。『爆裂都市』はその勢いにのって、石井聰互監督が初めて手がけた35ミリ劇場作品だった。
しかし、よくもわるくも、彼は自主制作映画のスタイルをこの作品でも貫き通し、結果、空前絶後の〝パンクムービー〟を撮り上げたのだ。パンクロッカーが主役だからそう呼ぶのではない。過去の映画の常識をなにからなにまで破壊しようと試みたそのスピリットがパンクだったのである。
スタッフも全員自主映画出身(のちに『どついたるねん』で脚光を浴び、石井聰互よりも売れっ子監督になる阪本順治の名前もクレジットされている)。エキストラのほとんども当時の学生たちのため、一般映画を観る感覚でみれば未熟なアラも目立つ。とくに音楽が売りのひとつであったにもかかわらず、音響のつたなさは残念としかいいようがない。それでも、いま観ても先鋭的な映像が騒音の向こう側にあるスピリットを伝える。映画はやはり〝映像力〟なのである。

この映画のキャストがいまみるとまた凄い。
主役を演じたのはこれが映画デビューの陣内孝則(当時は人気インディーズバンド〝ロッカーズ〟のボーカル)、いまや芥川賞作家として文壇で活躍する町田康(当時は町田町蔵。パンクバンド〝イヌ〟ボーカル)、変態パンクバンドのスターリン(ボーカルの遠藤ミチロウはステージでオナニーしたり豚の臓物を客に投げつけたりで悪名高かったが、私は彼の書く歌詞が大好きだった)、そして名の知れたところでは泉谷しげる(この映画の美術監督も兼任)、戸井十月、上田馬之助、コント赤信号、麿赤児、まったく無名時代の室井滋(彼女はもともと自主映画でヒロインを演じていた)も出演している。

■1982年/東映セントラルフィルム/ダイナマイトプロダクション製作
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by leicacontax | 2006-09-02 12:44 | 映画/TVドラマ | Comments(5)
2006年 05月 28日
ザ・ヒットパレード〜芸能界を変えた男・渡辺晋物語
金曜と土曜の二夜連続ドラマ「ザ・ヒットパレード〜芸能界を変えた男・渡辺晋物語」(フジテレビ21:00〜)を観た。渡辺プロダクション創始者・渡辺晋の生涯と戦後芸能史を描いたこのテレビドラマ。夕飯を食べながら何気なく観始めたのだが、気がつけば没頭していた。

オープニングは初めてのテレビの前に近所中の人々が集まって大騒ぎになるという、昨今の昭和レトロブームの映画やドラマではお約束のエピソード。CGを駆使して再現された昭和30年代の下町の場面には、もはや、懐かしさというより、その昭和テーマパーク的なビジュアルの定型化が鼻につき「なるほど、ブーム便乗企画なわけね」と鼻白んでしまった。だが、すぐ、古いテレビ映像とメインのドラマ部分の場面転換の映像シンクロの見事さに感心して引き込まれた。
オンエア前に番宣(番組宣伝のスポットCM)で流れていたのは、現在の俳優が演じる往年の芸能界の再現場面ばかりだった。そのチープさ加減が気恥ずかしくてそれであまり期待する気になれなかったのだが、現在のハイビジョンモニターで見るとみすぼらしさばかりが目につく当時のテレビセットの再現が、スーっとドラマの中の解像度の低いモノクロテレビの画質にオーバーラップするように変化すると、驚く事に、かつて見たブラウン管が目の前に出現! セットのチープさはその時代の映像技術と受像機の性能を前提にした計算で、おそらくは実際もそうだったに違いないとすっかり納得。CGによるのっぺりした昭和の風景の再現には重きを置かず、微妙な映像そのものの質感にこだわった細やかな演出が、気持ちよく時代の空気感を表現していた。とにかく、ドラマ全体を通して、当時の映像素材と再現シーンの融合がこれほど違和感なく自然に感じられたテレビドラマは初めてだった。

ドラマの中身はというと、渡辺晋という芸能界の大立て者のサクセスストーリーの上澄みの部分のみで構成されているといった感じ。若き日、バンドマン時代に仲間のミュージシャンが借金苦で自殺を図ったり、手塩にかけた所属タレントが金につられて簡単に移籍したり、芸能プロ社長として成功してからはショービジネスを一段低いものと見下す財界に必死に取り入ろうとしたりするネガティブなエピソードも幾つか描かれているが、あえて生々しい後日談は一切語られてない。
といって、それは当の渡辺プロダクションと主要な舞台になっているフジテレビが制作した手前味噌なドラマの限界というわけではなく、そこはやはり、〝夢を見る力〟というドラマのテーマを尊重した制作者の意図のように私には感じられた。どんなに表面を取り繕っても、相変わらず興行の世界には闇が存在する。闇の世界に触れてしまえば、どうしてもドラマに一抹の虚しさが宿る。闇は光をのみこんでしまう。制作者はそれを避けたかったのだろう。

それにしても、このドラマには見事なくらい私の幼年期の記憶がぎっしり詰まっていた。劇中で使われた「シャボン玉ホリデー」のオリジナルのコントシーンなど自分でも意外なほどはっきり憶えていたし、クレージーキャッツやザ・ピーナッツの映像を呼び水にして、その頃の記憶の断片が次々に蘇った。昔、クレージーキャッツは面白いと思わなかった。日曜の夕方に放送されていた(と記憶している)「シャボン玉ホリデー」は嫌いだった。なのに、こんなにも鮮明に憶えている。大好きで夢中で観ていたはずのテレビアニメよりはっきり。不思議だった。

昭和30年代から40年代に生まれた最初のテレビ世代は、芸能界を一代で築き上げた渡辺晋という巨人の夢に多大な影響を受けていたことをこのドラマで初めて知った。そして、まさに昭和37年生まれの私など、テレビやエンタテインメントがなかったらいったい自分はどうなっていただろうかと考えさせられ、ぞっとした。
テレビは私にとって記憶。エンタテインメントは生きる支え。現在も自分も、すべては先人たちの夢の延長にあった。
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by leicacontax | 2006-05-28 11:24 | 映画/TVドラマ | Comments(0)