2008年 12月 07日
K-1のこと。IGFのこと。久々に思いきり語りたくなった。〈その2〉
さて、次はプロレスについて。
少し前になるが、名古屋で行われたIGFの「GENOME7」をTV観戦した(11月24日スカパーにてペイパービュー)。
GENOME7のテーマは「原点回帰」。そして大会の見所はなんといっても旧UWFインターナショナル勢(高山善廣選手、金原弘光選手、松井大二郎選手)と初代タイガーマスク選手、藤波辰爾選手の初参戦だった。
新日ストロングスタイル及び、その流れを汲むUWFスタイルを身に付けた彼らが、すべての原点であるアントニオ猪木が新たに作り上げたIGFというリングでどんなファイトを見せるか? 
個人的には、この参戦によって何も生まれないようであるなら、もはやIGFに先はないような気がしていた。

1年半前にIGFが旗揚げされた際のメインテーマは「プロレスの復権」。
しかしながら、毎回、IGFのリングで繰り広げられるファイトからは一向にプロレス復権の具体的な方法論が見えてこなかった。
ジョシュ・バーネット選手、高橋和生選手、タカ・クノウ選手といった、たしかな格闘技術をベースにした選手たちによる格闘技テイストのプロレスや、あるいは圧倒的身体能力を利したザ・プレデター選手やモンターニャ・シウバ選手のモンスターファイトなどは、時折、往年のストロングスタイル・プロレスが醸し出していた怖さという香りを漂わせていて可能性を感じさせた。とはいえ、それはあくまで個々の力量のなせる技。IGFという団体のプロデュースによるものでないことはあきらかだった。
それがである。「GENOME7」に至って、初めてIGFの掲げる「プロレスの復権」の方法論がはっきり見えたのだ。

まず気付いたのが、視界を遮り、観客の集中力を殺いでいた「照明用の鉄骨の柱」とステージからリングへ続く「花道」が撤去されたこと。そして現れたのは──’80年代まで長年我々が親しんでいたプロレス会場の風景。会場という空間からして、目に見える形で原点回帰が具現化されたのである。
そんなことか、と笑う人もいるだろう。しかし、侮るなかれ。これは緊張感を生み出す上でかなり重要なポイント。

選手入場というのは、観客にとって期待感が最高潮に達する瞬間だ。これはボクシングも格闘技もプロレスも変わらない。戦場に向かう選手の緊張感とそれを見守る観客の期待感が重なり合い、共同で会場のボルテージと集中力を高める重要な儀式の時間。この気持ちを合わせる儀式がうまくいってはじめて試合開始と同時に観客もじっくり試合に集中する事が可能になる。ところが、’90年代以降、ドーム球場や巨大アリーナで興行が行われるようになり、選手登場からリングインまでの過剰ともいえる演出が当り前になると──儀式は次第に形式と化してしまった。

演出そのものは否定しない。単純に楽しいと思う。しかし、演出とはそもそも本筋部分を盛り上げるための工夫であり、あくまで主役である選手登場に添えられる彩り。それ自体が見せ場ではない。ところが、姿を現すだけで勝手に周りが盛り上げてくれるようになったせいで、選手はあたかもそれが自分の仕業であるかのように勘違いして自分を見失っていく。

ボクシングや格闘技の場合、花道の向こうに待っているのは必ず勝利か敗北かという過酷な結果だ。したがって、花道や演出があろうがなかろうが、選手の心構えに揺るぎはない。観客もそれを十分承知しているから演出に気を取られて緊張や集中を切らすことはない。
ところが、プロレスは違う。勝ち負けという結果そのものにさして意味を持たないプロレスは、選手自身がしっかりと緊張感や決意のようなものを抱いて花道を歩かなければ途端に演出に呑み込まれてしまい、観客も演出を楽しむうちに集中力を欠いてしまう。
ゴングが鳴ってから集中力散漫になった観客の注意を惹くのは至難の業だ。それに花道という大掛かりな装置や派手な演出に呑み込まれないプロレスラー自体、そもそもそうざらには存在しない。歌舞伎や演劇といった人目を惹いてなんぼのプロフェッショナルたちの世界でさえ、長い花道に負けない存在感を示せる華のある役者はごく一握り。逆に言えば、花道というのは、そこを歩かされたが最後、器量のほどが丸裸にされてバレバレになってしまう恐ろしい場所なのだ。

しかし、自分を見失ったレスラーはその恐ろしさに気付かないまま花道を緊張感なく単なる通路のように歩き、観客はそのあまりに普通過ぎる姿を見て冷めてしまう・・・そんなことがずっと当り前に繰り返され、慢性的に会場の盛り上がりに水を差し続けていた。
IGFが花道をなくして昔ながらの選手入場に戻したのは、したがって大正解。だいいち、群がるファンの間をかき分けてレスラーが登場した方が見た目に一体感があり、試合そのものに期待感を直結させやすい。

そしてGENOME7の最大の収穫。それは第1試合から第3試合のいわゆる前座試合にあった。
第1試合「金原弘光vs.鈴木秀樹」、第2試合「浜中和宏vs.松井大二郎」、第3試合「アレクサンダー大塚vs.タカ・クノウ」。この日がデビューの鈴木秀樹選手(UWFスネークピットジャパン)に第1試合から実力者・金原弘光選手が胸を貸すというマッチメイクは絶妙。リングスではエースも務めた金原選手という高い壁を相手に、初めての試合で持てる力のありったけをぶつけることができた鈴木選手は幸せだったと思う。鈴木選手は体もしっかり出来上がっていて、随所にビル・ロビンソン譲りのキャッチ流の本格テクニックも披露。第1試合で久々に見た静かで熱いレスリングの攻防は、まさにかつての新日本の緊張感を彷彿させたし、それは観客にも伝わっていたように感じられた。

第1試合で引き締まった雰囲気は、そのまま第2試合、第3試合にも引き継がれる。
浜中選手と松井選手は元同門。双方ともPRIDEで総合経験もある。しかしながら、いままでのIGFの場合、総合経験者同士の試合はどうしても疑似格闘技スタイルに流れがちで、必ずしも迫力に結びついていなかった。
それはどんなに内容のある攻防をしても、総合スタイルを意識してパンチを繰り出した途端に観客がしらけ、逆にそれまでのすべてが嘘に見えてしまうという最悪のパターン。いっそのことグローブ着用をいっさい禁止し、従来のプロレスと同じ平手の張り合いに戻した方がよほど迫力があると感じていたのは私だけではなかったと思う。
が、浜中vs.松井の試合はそんなうわべだけをなぞった中途半端さは微塵もなく、気迫を前面に出した両者のファイトは、かつてのストロングスタイルプロレスに垣間みられた、闘っている者同士にしかわからない駆け引き──もうひとつの見えない闘いの存在を感じさせた。おそらくはそれが気迫となって観る者の心にも届いたのだろう。この試合、文句なく、IGFおける浜中選手のベストバウトだった。

玄人ファンなら誰もが認めるアレクサンダー大塚選手と、どこか劇画チックな地下プロレスを想起させる柔術家タカ・クノウ選手の試合も見応えがあった。
IGFでプロレスラーとしてデビューして以来、レギュラー出場を続けているタカ・クノウ選手は、その高度な柔術テクニックによって毎回観客を唸らせてきた。しかし、プロレスラーとしてのキャリアの浅さと、相手にもテクニックがあってはじめて噛み合うテクニシャンの宿命か、これまで必ずしも持ち味を発揮していたとはいえなかった。それがアレクサンダー大塚という懐の深いレスラーを相手にしたことで、流れる様に美しい柔術の技を存分に繰り出すことができた。高い技術を引き出し合う駆け引きもまたストロングスタイルの醍醐味。その意味において、この一戦も紛れもなく原点回帰というテーマを体現することに成功していた。

第5試合「ザ・プレデターvs.ネクロ・ブッチャー」、第6試合「高山善廣vs,モンターニャ・シウバ」はプロレスのもう一つの面白さである喧嘩ファイトとスケールの大きなモンスターファイトの魅力満載。それぞれの選手の持ち味が存分に発揮されていて、かつ、開放感満点の、これぞプロレスだった。

セミファイナル「藤波辰爾vs.初代タイガーマスク」。
10分1本勝負というエキシビションながら、一世を風靡したプロレス界のスーパースター同士の初対決はまさにレジェンド対決。遅過ぎたことは否めないし、そんなことは誰しも百も承知。が、このカードの背景にはアントニオ猪木を中心とする離合集散の大河ドラマのような愛憎劇も横たわっており、長年プロレスを見て来た者にとって、この一戦は歴史の総括でもあった。

はたして、試合は濃密なストロングスタイルの好勝負となり、10分はあっという間に過ぎてしまう。たしかな技術の応酬はそれだけで観る者を魅了する。
相手の技術を封じ込めた者が勝つ格闘技や他のスポーツから見れば、それは馴れ合いやインチキにしか見えないかもしれない。しかし、そこで交換される技の一つ一つが説得力のある本物ならば、それを観客に提供するメインディッシュに据えたとしても決して不純ではないし、潰し合いとは別次元のれっきとした格闘技たりえると私は思っている。
若き日、カール・ゴッチとアントニオ猪木から強さを叩き込まれた藤波辰爾と初代タイガーマスク。両雄の高度で味わいのある技の応酬は、いつまでも見ていたいと思わせる美しさがあった。

「GENOME7」の成功は、もちろん選手達の力によるものだ。が、おそらく、今回それらを引き出した影の功労者は、終始リングサイドから選手に鋭い視線を送り、檄を飛ばしていた宮戸優光氏の力によるところが大だと思われる。
自らが主宰するUWFスネークピットジャパンでビル・ロビンソン氏と共にストロングスタイルプロレスの根拠であるヨーロッパ伝統の格闘技術「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」の継承に心血を注いでいる宮戸氏が新たにIGFのリングゼネラルマネージャーに就任したことで、氏を信頼するUインター勢の参戦も可能となり、キャッチの技術をあらためてプロレスに再注入できる道筋も立った。
さらに言うなら、宮戸氏はトレーナーとして技術を知り尽くしているだけでなく、かつてUインターの仕掛人として数々のビッグイベントを成功に導いた手腕も兼ね備えている。IGFの会場にピンと張り詰めた空気が生まれたのはその現れ。ペイパービューの実況中継の放送席から軽薄なゲストやおちゃらけたノリが消えたことも、おそらくそれと無関係ではないように思う。

追記
ちなみに3日前、後楽園ホールに初代タイガーマスク・佐山聡さんのリアルジャパンプロレスの大会を観に行った際、会場で宮戸氏とお会いした。宮戸氏とは1年ちょっと前に雑誌のインタビューでお話を伺い、そのプロレス観に感服して以来の再会。挨拶を交わした後、「このまえのIGFの大会、とてもよかったです」と言うと、「いや、まだまだです」という頼もしい答えが返ってきた。
その日は元週刊プロレス編集長のターザン山本さんとも10年か11年ぶりに会えて旧交を温めることができた。山本さんもことのほか喜んでくれて、しばし、昔、一緒に食べたすきやきの話題などで盛り上がった。こういう楽しいひとときも開放的なプロレス会場ならでは。やっぱり、プロレス観戦は生に限る(笑)。
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by leicacontax | 2008-12-07 21:25 | プロレス/格闘技/ボクシング


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