K-1ワールドGP2006
2006年 12月 03日
バンナ、ホースト、アーツというK-1の歴史を築き上げて来たビッグネーム達をことごとく退けたセーム・シュルト。あの超巨体に似合わぬ技のきれと冷静な試合運びにはほとほと感心させられた。今年に入ってクリンチへの規制が厳しくなり、巨体を利した戦術の変更を余儀なくされて一時はスランプに陥ったとも聞いたが、昨晩のファイトを見る限り、接近戦よりも前蹴りを主体にした中間距離での動きが非常にスムースで、むしろ本来の空手家の闘い方に戻ってかえって生き生きしていたように感じられた。真っ直ぐ突き刺すように繰り出す前蹴りは空手の基本中の基本なのだが、シュルトのあの体格があれば、もう、それだけで必殺技。ただ、あれだけ大きな体になると、普通ならその基本通りの動きを身につけること自体が困難。格闘技の技術は、あくまで常人の体のサイズに合わせてつくられており、巨体も過ぎれば必ずしもセオリー通りにはいかないし、第一、動けない。シュルトという選手の凄さは、あの肉体にして常人と同じ動き、スタミナを有している点に尽きる。
それにしても、敗れたとはいえ、バンナ、ホースト、アーツの闘いも素晴らしかった。とくにアーツ。私が見る限り、昨晩の彼のファイトは前回優勝時('98)以上の迫力だったように感じられた。きっとアーツは、共にK-1を創成期から支えてきたライバルとして、仲間として、ホーストの引退や今年のバンナの充実ぶりに感じるものがあったのだと思う。ホースト同様、あきらかにピークを過ぎたアーツは、いま、己の肉体の限界にも直面しているはず。実績も残した。もう、ボロボロの体に鞭打って闘う理由も見つからないに違いない。そのアーツがリングで見せた全盛期を上回る鬼の様な気魄には、理屈抜きに心を揺さぶられた。素晴らしかった。それ以外、言葉はない。
ぼくもピーターアーツに感動しました。運命の皮肉というか今のシュルトの立場はかつてのピーターアーツそのもののように思えます。現役も末期に近づきかつての自分に出会ってしまったアーツ。そして帝王が一チャレンジーとなって見せた気迫・・・凄かったです。
たしかに今のシュルトの立場は、かつてのアーツと重なりますね。〝20世紀最強のキックボクサー〟の名をほしいままにしていた頃のアーツは、まさに絶対王者でした。でも、その頃のアーツは天才肌であまり凄みは感じられず、豪快な勝ちっぷりの割に印象が薄かったように思います。その天才が衰えという自分の肉体の裏切りに必死に抗う姿。アーツの本当の敵は、自分自身だったような気がします。