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アンティーク〜西洋骨董洋菓子店〜

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私がとても好きな、もしくは記憶に焼き付いて忘れられないテレビドラマには困った共通点があります。古くは『悪魔のようなあいつ』『昨日、悲別で』、いちばん新しいところでは『下北サンデーズ』などがそうなのですが、簡単に言ってしまうと、これらは鳴り物入りでスタートしたにもかかわらず、いずれも期待された視聴率を稼げずにおわってしまった、いわゆる期待はずれという不名誉なレッテルを貼られているという点です。

'01年に放送された『アンティーク〜西洋骨董菓子店〜』もそのひとつで、キャストには、滝沢秀明、椎名桔平、藤木直人、阿部寛、小雪という錚々たるメンバーを揃え、音楽はMr.Children、演出も『踊る大捜査線』の本広克弘らが担当と、どこをどう探しても失敗する要素は見つからない完全無欠の売れ線ドラマでした。
ところが、蓋を開けてみれば平均視聴率17.7%。普通に考えればさほど悪い数字ではないですが、なにしろフジテレビが総力をあげて制作した『月9ドラマ』ですから、この結果は肩すかしと結論づけられても仕方なかったわけです(最近はもっと悪いこともしばしばなようですが)。

しかし、そんなこととは関係なく(そもそも視聴率とドラマの本質的な良し悪しは無縁です)、このドラマは面白かった。『西洋骨董菓子店』という少女漫画が原作(よしながふみ)らしいのだけど、漫画ならではの設定の面白さとキャストの個性が実に自然に噛み合っていて、毎回、ドラマ全体になんともいえない心地よい空気が流れていました。私は映画もドラマも小説も、どちらかというとストーリーよりディティールに惹かれるたちなので、その意味でこのアンティークは見事にツボでした。
舞台になっている元アンティークショップを改造したという設定の洋菓子店『アンティーク』のセットの素晴らしさは言うに及ばず、私が感心したのはタッキー演じる元天才ボクサーのパティシエ見習い・神田エイジの堂に入ったボクサー姿。牟田悌三演じるボクシングジムの会長も妙にリアリティがあって、後楽園ホールでの試合シーンといい、テレビドラマのボクシングに関する描写としては出色の出来で、ハリウッド映画並みの準備が可能だったなら、おそらくタッキーは『レイジングブル』のデ・ニーロや『アリ』のウィル・スミスのように完璧にボクシングをマスターし、ボクサー特有の剃刀のような肉体もつくりあげて見せただろうと思わせるくらいの説得力がありました。
説得力といえば、第2回(「愛の井戸」)にボクサー役で長塚圭史がゲスト出演しているのですが、彼もさりげなくボクサーの危うさと脆さを演じていてよかった。話はよくあるパターンですが、私はこの回がいちばん気に入っています。

現実離れした設定でありながら、ドラマは終始、劇的な方向には流れず、人と人の交わりからうまれる温もりをさりげなく描くことに徹しています。それが心地よい空気の理由なのですが、たぶん、そこに視聴率不振の原因もありました。
アンティークの放送が始まる直前です。あの9・11同時多発テロが起きたのは。
テレビでは連日、現実とは思えないショッキングな映像が流されつづけ、世の中には怒りと虚しさと不信が蔓延していました。そんなとき、同じテレビのモニターに映し出されたこのドラマの優しさや温もりが絵空事のようにしか見えなかったとしても、それはそれで、仕方のないことでした。

いまからでも遅くありません。まだ観ていない方は、ぜひ、DVDでご覧になってください。
私は疲れると、甘いものが欲しくなるように、このドラマが観たくなります。




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by leicacontax | 2006-09-13 17:54 | 映画/TVドラマ | Comments(0)

現実は精巧に造られた夢である。〈長谷川りん二郎の言葉〉


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