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蒲田行進曲

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80年代、日本映画はどん底の時代だった。
東映、東宝、松竹のメジャー3社は製作本数を大幅に減らし、70年代にいちはやくロマンポルノに活路を見出して路線転換していた日活(にっかつ)はそれでもじり貧の一途をたどり、角川映画だけがひとり気を吐いている、そんな頃・・・それでも映画の世界に憧れ、大学でせっせと8ミリフィルムの自主映画を製作していた学生たちに、1本の映画が夢と勇気(ちょっぴり切なさを伴った)を与えてくれた。
「蒲田行進曲」。監督は「仁義なき闘い」の深作欣二。原作・脚本は、当時、一世を風靡していた、つかこうへい。燃え尽きる寸前の蠟燭が最期の輝きを放ったかのような、そんな映画だった。

この映画の不思議なエネルギーの元は「ねじれ」である。
どん底の時代に、あえて日本映画黄金時代の空気を蘇らせた架空の映画界を舞台にした設定。主演の銀幕スター(日本映画全盛期は絶対的スターシステムの時代でもあった)「倉岡銀四郎」をまだ無名だった風間杜夫が演じ、落ち目の元スター女優「小夏」を人気絶頂だった松坂慶子が演じるというキャスティング。主役の3人(銀ちゃん、小夏、ヤス)の奇妙な三角関係。そもそも角川映画が松竹と組んで東映を舞台にしているのだから何から何までがねじれていた。
しかし、そのさまざまなねじれが、深作監督の小細工なしのダイナミックな演出によって一気に解き放たれ、映画の根底に流れるつか作品特有の理不尽と情念という暗いテーマをエネルギーに転換し、笑いと涙と怒りと切なさでこれでもかと観る者を圧倒する。それはまるで、あらゆる負のエネルギーをリングで昇華させてのけた全盛時代のアントニオ猪木のプロレスのようでもあった。

人生感動! この映画のキャッチフレーズである。
命懸けの嘘が激しく胸を揺さぶる。
観終わった後に残る、ちょっぴり切ない思いは、涙を流して感動しつつ、嘘を嘘とわかっている、もう一人の自分の哀しみだ。

■蒲田行進曲
1982年/松竹製作/第6回 日本アカデミー賞(作品・監督・脚本・主演女優・主演男優・助演男優・音楽)/第37回 毎日映画コンクール(大賞・監督賞・女優主演賞・美術賞)/第25回 ブルーリボン賞(作品賞・監督賞)/第56回 キネマ旬報賞(作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞・助演男優賞)/深作欣二 監督作品






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by leicacontax | 2006-03-14 14:24 | 映画/TVドラマ | Comments(0)

現実は精巧に造られた夢である。〈長谷川りん二郎の言葉〉


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